ラグビープロコーチの有賀 剛氏と、スポーツとビジネスの共通切り口を、対談を通してお聞きしました。
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プロフィール
有賀剛:(あるが ごう、1983年11月3日)
現役時ポジションFB・CTB / 身長175cm / 山梨県出身
元ラグビー日本代表選手(18キャップ)。山梨県立日川高校で、3年連続全国大会に出 場。関東学院大学に進学し、3年時・4年時とキャプテンを務めた。卒業後は当時清宮監 督就任が決まった直後のサントリーサンゴリアス(当時)に入団し、2006年から2017年 まで11年間プレーした。同時に2006年から2012年まで日本代表として活躍した。現役引 退後はサントリーサンゴリアス(当時)でアシスタントコーチを務め、現在静岡ブルーレヴズにてアシスタントコーチとしてご活躍中。
Q1: コーチになった理由を教えて下さい!
有賀氏:自分の場合、父親が高校の教員で且つ、ラグビーの監督/顧問をしていた影響で、幼い頃からラグビーが身近にあり、高校から現役引退までずっとラグビーをしてきました。その中で、社会人になる際の選択肢として、社員選手かプロ選手かなどの選択肢がある中でプロ契約を選びました。その理由として、将来指導者になりたかったのが大きかったです。
更に、選手の時にバイスキャプテンを7年させて頂いた際に、チームや選手に対して「どうすればパフォーマンスが改善するのか?」等を日々考えて行動していくうちに、更に指導者になりたいという気持ちが高まり、具体的なイメージを持てたので、その結果今に繋がっているのだと思います。
また、現役時代の時から人を観察する癖があったので、選手一人一人の特性や長所に成り得る所を、日々注意深く見ています。それによって選手自身が向上するために能動的に行動出来る様に、様々な質問を投げかけています。コーチングで大事な所は、選手の自発的な行動を引き出すためのコミュニケーションスキルだと思っているので、日々選手達から学ばせて貰いながら、向上心をもって取り組んでいます。
深谷:迷いながらも、初めての社会人になる一歩目の決断って、漠然としているものの、非常に重要ですよね 自分は両親が元高校の校長、兄が医者と先生家系に生まれ、また海外の大学やNZラグビー文化に触れていた当時の価値観において、就職は非常に悩みましたね。当時のラグビーで最強だったオーストラリア監督のボブ・ドワイヤー氏の、「The Winning way」という書籍で、All Blacksに勝つ為の戦略等を読み漁り、それらを通じて目標設定も大事だが、目標達成に至る為の戦略策定、遂行する為のプロセス等がより重要だと認識しました。そのうえで、自分が持っているラグビーのバックグラウンドを最大限活かすなら「戦略策定」する仕事=コンサルティングにラグビーのコーチのようなコミュニケーションを掛け合わせるしかない!と考え、「ラグビーで就職」ではなくコーチングを含んだコンサルティングを自分の当時の適職の仕事として選んだ経緯があります。
Q2: コーチとしてチームと関わっていく上で、チームの理想像はどのようなものなのでしょうか?
有賀氏:まだコーチ経験として2チームしかないですが、今の所、自分が求めるチームの理想像としては、チームにきちんとした規律があり、選手達がコーチが落とし込むもの/浸透させようとしている事を理解し、リーダーを中心に選手が主体的に動く事が出来る/問題を改善出来る、そんなチームでしょうか。
この様なチームになるのは、過程も含めて非常に重要だと思いますが、選手やリーダー、コーチ、監督全て関わるメンバーの目標が一致しているので、達成できると思ってますし、やはり日々の過ごし方や向上心、チームの文化等の様々な要因が関係してくるんだと思ってます。
深谷:全員の目標が一致しているのはビジネスとしてはもちろん、マネジメントとしても個々の目標が総じて会社の目標になると思うので、非常に重要ですね。 また、目標を達成する際の過程では、個々の主体性は勿論ですが、チーム内での課題改善力も組織のコンピテンシーに相当するので、ビジネスとして勝ち続けている企業に通ずるものがあると思いますね。 文化の醸成や変革は、自分の中では企業経営では未来を左右する一番重要な項目だと捉えており、また有名なピータードラッカー氏も「企業文化は戦略に勝る/Culture eats strategy for breakfast」という有名な言葉を残しています。
文化は企業と従業員との間での意識的/無意識的に共有されている独自の価値観や行動規範創であり、創業時からの歴史や伝統、実績や経営者の思考が自ずと出てくるものだと思っており、どの様な沿革を経てきたのか、どの様に勝ちを積んできたのか、様々な過去を理解した上で新たに変革していくのは、事業成長や生産性の向上には欠かせないものですね。例えば、ミッション/ビジョン/バリュー等、今のラグビー日本代表のジェイミージャパン、各リーグワンのチームでも設定され、関わっている全てのメンバーがそれらを遂行していると認識してます。
Q3: 様々なチームのコーチになって自身で大事にしている事/心掛けている事(マインドセット含めて)は何ですか
有賀氏:先程の人を観察する癖に通じるものがあるのですが、まずはよく観察すること(選手の能力、顔つき、態度等)を重要視してます。それは、コーチングを日々徹底して行っていくにあたり、今後のコミュニケーションをする際のポイントだったりするので、言葉にする前には、徹底的に且つ詳細に観察し、良いポイント/悪いポイントを抽出し、日々の各選手の改善に繋がる事を心掛けてます。
また、少しでも違和感やおかしな事があった場合は、見て見ぬ振りをせず、必ずコミュニケーションを取る際にフィードバックする事にしております。
やはりちょっとした事が、試合中の大事な場面での、最適なプレー選択に求められる判断力/決断力や周りとのコミュニケーション力、創造力等に繋がっていく部分ですので、結果はどうであれ、それら過程を大事にしてます!
深谷:そういった、選手に本気で寄り添ったコーチングは、本当に素晴らしいですね!
今の時代、本気で怒ってくれる方/指摘してくれる方も減っていますからね。 特に『見て見ぬ振りをしない』というのはビジネスでも大事だと思っています。そういう人との関係で、難しい部分をコーチングで実践しているのは凄いですね。仕事に通ずるものですね。10年以上の外資系コンサルティングでの経験や、事業会社での役員経験等を通じて、大事にしている事は「ちゃんとやる」事です。「ちゃんとやる」というのは、説明が難しいですが、「誠実に最後までやりきる」ということです。「うまくやる」というのは、「表面的で上手く設る/取り繕う」ということだと思っております。
コンサルティングを通じて、世の中や顧客の経営含めた状態を鑑みると、「ちゃんとやる」事が出来ていない事が散見され、残念に思う事が非常に多いです。例えば、儲かる事を優先し、顧客にリスクがあっても伝えずに利己優先に終始していたり、顧客に知識を与えないで、仕事を永続的に進めたりするベンダーロックインetc… そういった、顧客のデメリットに見て見ぬ振りをしてなんとか「うまく」進めようとすることが非常に多いと感じています。 ラグビーチームの監督をしていた時もそうでしたが、事業を行う上でも、顧客に対しても「うまくやる」ではなく「ちゃんとやる」事を一番大事にしています。、振る舞いや言動で「プロフェッショナル」に徹する事は前提として、物事を決断/判断する際の「倫理観」を大事にし、お客様に「寄り添った」コンサルティングのサポートを徹底してます。
有賀:確かにラグビーにも通じることがありますね。コーチとして仕事をしていると「ちゃんとやる」ということをしっかり指摘しないといけない半面、親しみやすさも大切で、その微妙な関係性の中でやっていかなくてはいけないので、そこの部分は難しいですね。
寄り添い方については、1by1のアプローチだけではなく、マネージメントやスタッフ含めた周囲にもフォローやサポートをお願いするなど、周りを巻き込む寄り添い方も意識していますね。
深谷:素晴らしいですね。こういったコミュニケーションのバランス感覚を持たれている方は大変貴重だと思っていて、。 ビジネス経験豊富な方でも、そこのバランスが取れなかったり、自利優先で利他があまりない場合も多いと思われるので、相手との距離を適切に測って、前に進める力って非常に難しいですよね。
Q4: コーチとしてチームメンバーに言葉をかける時、どのような工夫をしていますか?
有賀氏:答えになっているかわからないですが、何を伝えるかによって、タイミングや場所を変えるなどの工夫をしています。 例えば、全体や各ポジション別に伝える際は、ポイントを絞って伝えたり、個人に対してのコミュニケーションであれば、1on1を毎月実施することを目標としています。選手の個別のキャラクターに合わせて、言い方や伝え方を変えたり、伝得るタイミングも非常に大事にしています。
深谷:そこは確かにとても大事ですよね。顧客や自社メンバーに対して、伝えたことを腹落ちしてもらうには、場所とタイミングを選んで伝え方を考慮するのは、スポーツも一緒なんですね!
ましてや、心構えだけだとしても、毎月実施するなんて、素晴らしいコーチですね。 きっと選手はどんどん良い方向に変わっていくでしょうね!
Q5: コーチとして、最初に着手する改善領域はどこでしょうか。